自宅と駐車場が一〇〇メートルほど離れているユーザー氏。車検を受けるためにクルマを引き取りにきてもらった。このときは駐車場まで同行してメカニックにカギを渡した。二日後、車検が終了したクルマを納車にきたメカニックは駐車場にクルマを置いてからユーザー宅にカギを届けながら車検費用を集金した。ここまでは問題がなかった。会社への帰り道、相棒の運転する車中でいま納車したクルマに忘れ物(整備中に作業服で座るためシートに油などが付着しないようにするシートカバー)をしたことを思い出したメカニックはユーザーの駐車場へ引き返した。一方、ユーザー氏も車検が終了して納車されたクルマを一〇〇メートル離れた駐車場まで見にいってクルマの中に忘れ物があることを発見、「明日にでも届けてやるか」と自宅へ戻ったあとだった。ところが翌日、ユーザー氏が駐車場へ行くとクルマの中にあったはずの忘れ物はこつ然と姿を消していた。もちろんクルマのカギはすべてしっかりとかかっていた。腑に落ちないのでディーラーへ問い合わせたところ、「忘れ物は昨日のうちに回収しました」というではないか。「カギもなくどうやってドアを開けたのか」、ユーザー氏の怒りは心頭に発した。朝一番の電話を受けてあわてたのは工場長。思いもかけないお客の怒りにとまどった。というのは、クルマのドアロックほど簡単な仕組みのカギはなく、それこそメカニックにとっては水道の蛇口をひねるようなもの。日常茶飯事なので軽い気持ちで忘れ物をお客のクルマから持ち帰ってしまったのだ。一度収めたクルマのカギをもう一度預かったりする手間をかけるのも面倒なので、直接駐車場へ引き返してドアを開けシートカバーを取り出したのが真相だが、悪気はなかった。収まらないのはユーザー。なぜカギがないのにドアを開けることができたのか執拗に迫った。まさか本当のいうことをいうこともできず、「当社で販売したクルマはすべてスペアキーが用意してあります」と説明、その場を収めた。が、今度は、「自分のクルマのスペアキーを他人が持っていたのでは安心できないから新しいカギに交換してくれ」という要求を突きつけられ、条件を飲まざるを得なくなった。この話は数年前のことで、最近のクルマは多少開けにくくなっているが基本構造は変化していない。いまでもクルマのカギは三〇センチの定規が一本あればアッという間に解錠できるのである。貴重品を車内には絶対に置かないことが一番の解決方法だ。
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